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【告訴が受理されない】

元警察幹部だからこそ語れる告訴状が受理されにくい理由


詐欺や横領、背任、業務妨害など、刑法に触れるとされる被害に直面したとき、多くの方が「告訴状を提出すれば警察が動いてくれるはず」と考えます。
しかし現実には、提出した告訴状が受理されず、被害の訴えが司法の場に届かないという声をが少なくないのは事実です。

このような状況に直面した方の多くが、憤りや不信感を抱くでしょう。
けれども私たちは、捜査の現場を知る者として、単純に「警察が動かない」と断じるのではなく、なぜ受理されにくいのかという背景構造を伝えることが、被害者を守る第一歩になると確信しています。


【問題の本質についての分析】

刑事告訴が「通らない」背景には、表面的には見えづらい複数の現実的要因が存在しています。

〇民事的側面が強い事案は、組織的に優先順位が下がる

警察署に持ち込まれる案件の中には、「契約上の不履行」「債権債務トラブル」「雇用関係の解消に伴う紛争」など、形式的には刑法上の構成要件を満たすものでも、実質的には民事的に処理すべき事案が数多く含まれています。

警察組織としては、こうした案件を一つ一つ刑事事件として受理・捜査していては、現場のリソースが圧迫され、本来優先すべき重大事件への対応が滞ってしまいます。

したがって、民事で解決可能な案件については、まずはそちらで解決していただき、刑事でしか対応できない事案を優先したいという意識が非常に強いのが、実務現場の実情です。

「立証の視点」が欠けた告訴状では警察は動けない

多くの方が告訴状には、「経緯と事実」を書くことに注力されます。
しかし、警察が必要としているのは「立証可能な事実」です。

告訴状の多くは、被害者の視点に基づいた出来事の羅列や、強い感情の訴えに終始していることが少なくありません。
確かに、怒りや悲しみ、不安がこもる告訴であることは否定できません。けれども、それが法的手続としての要件を満たしているかは別問題です。

警察が告訴状を受理するか否かの判断を下す際には、

  • どの行為が、どの法律のどの条文に該当するのか
  • それを裏付ける客観的証拠が存在するか
  • それを立証できる証言や資料が揃っているか

といった構造的な要素が不可欠となります。

しかしながら、告訴状の中には、

  • 事実関係が時系列で整理されておらず、経過が不明瞭
  • 相手の行為が何罪に該当するのかの整理がない
  • 証拠はあると主張しているが、それが何を証明するのかが曖昧

といった問題を抱えたものも多く、警察がそのまま受理して捜査を開始するには情報が不足しているという判断に至るのです。

このように、「立証の視点」が抜け落ちていることこそが、告訴が受理されない最大の要因の一つと言えるでしょう。

〇構成要件が整っていても、それだけで受理されるわけではない

刑法上、犯罪の成立には「構成要件該当性」「違法性」「有責性」の三つが必要です。
しかし、これらが形式上揃っているように見えても、それだけで警察が機械的に告訴を受理することはありません。

なぜなら、受理すれば警察はその瞬間から組織として正式に捜査を行う責任を負うことになるからです。
その捜査には、関係者への事情聴取、証拠収集、報告書作成、検察送致、補充捜査といった多大なリソースが必要となります。

つまり、構成要件が整っている=全てを受理する、というのは理論上は正しくても、実務上は処理が追いつかないという現場の限界が存在するのです。

〇警察組織の限られたリソースと「捜査比例の原則」

日本の警察組織は、日々多発するあらゆる事件に対応していますが、その人員も予算も限られており、全ての刑事告訴に一律で対応できるわけではありません。

ここで重要なのが、捜査比例の原則という考え方です。これは、刑事訴訟において、被疑者の人権や社会的影響を考慮しつつ、必要かつ相当な範囲でのみ捜査を行うべきであるという基本理念です。

たとえば、数千万円規模の横領事件や再犯性が高い暴力犯罪などと比べ、当事者間の金銭トラブルや軽微な信用毀損が刑事事件としての優先度を下げられるのは、まさにこの捜査比例の原則に従って判断されているのです。

警察は捜査を開始するにあたり、社会的インパクト、事件の重大性、再犯可能性、証拠の有無などを総合的に検討します。そして、その捜査に投入すべき人的・物的コストが、事件の重要性に比例しているを内部で判断しているのです。

つまり、どれだけ法律的に犯罪が成立する可能性があっても、捜査に費やすエネルギーが社会的利益に見合わないと判断されれば、受理が見送られる可能性は非常に高くなるのです。


【ディフェンス・カンパニーが提案する解決策】

捜査の現実に即した告訴状構成支援
警察の捜査現場に精通した当社が、受理に足る構成要素を明確化し、形式ではなく実務に適う形で告訴状の構成を整えます。

民事と刑事の要素の切り分け
争点が混在している場合でも、刑事としての悪質性や計画性、反復性などを明示することで、告訴の社会的必要性を強調します。

証拠と経過の時系列化による可視化
資料を単に集めるのではなく、警察が理解しやすい形で構造的に整理。行動履歴、因果関係、損害発生の因果を文書化します。

顧問弁護士との連携による合法的提出
当社が収集・整理した調査資料をもとに、当社の顧問弁護士が正式な告訴状を作成し合法かつ実効的な手続へつなげます。

警察署対応のシミュレーション支援
告訴状提出時のやりとり、想定問答、調書作成における注意点などを警察OBが事前に助言。受理のための「整った現場」を作ります。


【おわりに】

刑事告訴は、法に訴える正当な手段であると同時に、その社会的・行政的重みを背負った制度です。
私たちは、その制度を熟知する者として、警察組織への敬意と理解を持ちながら、依頼者が正義を諦めずに済む道筋を構築することを使命としています。


【ディフェンス・カンパニーの格言】


告訴とは、法と社会を結ぶ交渉である


感情ではなく、準備と構成と理解があってこそ、正義は届く。交渉に必要なのは怒りではなく、設計です。


※本記事は、危機管理コンサルタントとしての見解を示したものであり、法的助言や法律事務の提供を目的とするものではありません。
法的判断が必要な場合は、当社の顧問弁護士をご紹介させていただくことも可能ですので、お気軽にご相談ください。