アディーレ事件に学ぶ「職場の異変」への初動と限界
「職場に異変を感じることはあるが、どう対処すればよいか分からない」
「小さなトラブルが重大事件に発展しないか不安」
そんな悩みをお持ちの企業経営者、人事担当者の方へ
2024年7月1日、東京・池袋のアディーレ法律事務所で発生した凄惨な事件が社会に大きな衝撃を与えました。
同事務所に勤務していた渡辺玲人容疑者(50)が、同僚の芳野大樹さん(36)を刃物で襲い、喉を複数回刺して殺害。動機は「人間関係のトラブル」と供述されています。
この事件は、従業員間の感情のもつれが最悪の形で噴き出した事案であり、単なる職場内トラブルでは済まされない「組織の危機管理の欠如」が浮き彫りになった事例といえるでしょう。
【問題の本質についての分析】
本件の最大の異常性は、「防げた可能性が極めて高かったにもかかわらず、未然に止められなかったこと」に尽きます。
容疑者は6月上旬、知人に「人を刺して刑務所に行く」と話しており、その知人から通報を受けた父親が四谷署に相談していたという事実があります。
つまり、事件の1か月近く前には明確な「兆候」が外部にも知られていたのです。
現場は、法律事務所という本来であればコンプライアンス・リスク感度の最前線にあるべき組織。
しかも、ホットラインや通報窓口の整備・活用が進んでいるはずの専門集団です。
それでも、社内にいた関係者の誰一人として本格的な初動対応を取らなかった。
ここにこそ、危機管理上の最大の盲点があります。
警察の視点から見れば、これは「凶悪事件の予兆を見逃した初動失態」であり、企業リスクの視点から見れば「組織としてのセンサー機能の崩壊」と言えます。
小さな人間関係の軋轢が「そのうち何とかなる」と放置され、職場内の沈黙が重なり、ある日突然「破裂」する。
この構図は、どの企業でも起こり得ます。
【ディフェンス・カンパニーが提供する解決策】
〇 職場の異変を「声」から拾い上げる環境整備
従業員がちょっとした違和感や不満を口にできる空気を醸成することが最初の防波堤です。
そのために我々が推奨するのは、「対話可能な上司」「雑談を記録できる面談ログ」「第三者への気軽な通報ルート」の三本柱です。
〇 外部による“職場気流”の定点観測
人事部門は組織の一部であるがゆえに、主観や先入観に陥りやすい。
我々は、定期的に現場を訪問し、温度感・関係性・発言傾向を定点観測することで「無意識の異変」を可視化します。
〇 ホットラインの設計と機能性の再構築
ホットラインがあっても、使われなければ意味がありません。
心理的安全性・匿名性・即応性を兼ね備えた仕組みを、ITと人間の両面から再設計します。
〇 通報者保護と事後ケアの明文化
「通報したら自分が不利になるのでは」という不安を払拭するため、通報後の取り扱いや保護措置を明文化。
相談者・関係者双方へのフォローを事前設計します。
〇 不在の人事部を補完する外部CSO体制
人事部門が把握できていない“裏の人間関係”は必ず存在します。
そこで当社では、企業の外部CSO(Chief Security Officer)として、密やかな調整・リスク情報の吸い上げ・火種の初期消火を担う体制を構築します。
〇 被疑的対象者への心理的安全措置
加害者とされる側に対しても、冷静なヒアリングと心理的配慮を持って対応する必要があります。
場合によっては、出社制限・一時配置換え・医療機関との連携も検討し、事件化を未然に防ぐ判断を促します。
〇 内部の沈黙を破るリーダー教育
直属上司や管理職が「見て見ぬふり」をしないよう、事例に基づく判断訓練とケーススタディ教育を実施。
現場の責任放棄を許さないリーダー育成を支援します。
〇 個別異動による「物理的隔離」体制の迅速化
関係悪化が明確であれば、即時的な席替え・担当替え・勤務地変更など“空間的距離”を確保する判断と実行が必要です。
当社では、組織マップを基にした「早期物理隔離プラン」も設計可能です。
【法的根拠と解説】~当社顧問弁護士の見解
〇 職場の安全配慮義務(労働契約法第5条)
使用者は労働者が安全に働けるよう配慮する義務があります。
今回の事件では、明確な危険の兆候があったにもかかわらず、使用者側が十分な措置を講じなかったとすれば、この義務違反が問われかねません。
〇 判例:電通事件(最高裁判決・平成12年3月24日)
最高裁は、事業者が労働者に対して「業務の量と質を適正に把握して管理し、当該業務の遂行にともなう疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないよう注意する義務」(安全配慮義務)を負うことを明確にしました。
過労自殺と業務との間の因果関係を初めて最高裁が認め、労働者のメンタルヘルス不全も企業の安全配慮義務の対象となることが示されました。
使用者の責任の根拠として民法715条(使用者責任)が認められ、上司など現場の監督者にも第一義的な責任があるとされました。
〇 示唆:法的には「未然防止」を怠ること自体が違法評価されうる
つまり、「事件が起きたあとに対応した」ではなく、「起きる前に対応すべきだった」という視点が現代企業には求められています。
〇 実務への落とし込み
・ストレスチェックの運用徹底
・通報制度における匿名保証と外部窓口の設置
・懲戒規程や出社停止措置のフローチャート化
・管理職へのリスク認知研修の義務化
【おわりに】
凶悪事件の多くは、突発的に見えて、実は必ず「兆し」があるものです。
その「兆し」を掴めるかどうかは、現場の声をどう拾い上げるか、そしてそれをどう生かすかにかかっています。
私たちディフェンス・カンパニーは、単なる危機管理コンサルタントではありません。
「何かがおかしい」と感じたその瞬間に、動き出せる組織をつくるため、あなたの会社にとって“もう一つの目と耳”となる存在です。
ディフェンス・カンパニーは、困っている人、企業、社会に手を差し伸べる存在であり続けます。
【ディフェンス・カンパニーの格言】
異変は声にならない叫びとして現れる
事件が起きる前に、その兆しは必ずある。だが多くは小さく、曖昧で、無言だ。だからこそ、「聴く力」を持つ組織こそが、未来を守る。
※本記事は、危機管理コンサルタントとしての見解を示したものであり、法的助言や法律事務の提供を目的とするものではありません。
法的判断が必要な場合は、当社の顧問弁護士をご紹介させていただくことも可能ですので、お気軽にご相談ください。