その残業、本当に必要ですか?

タイムカード管理の限界と企業を守る戦略的「残業改革」


「パソコンが21時まで起動していたから、残業代を払ってほしい」
ある労働審判の場で、労働者側がこう主張した事例がありました。企業側は「自席にはいたが、YouTubeを見ていただけ」と反論。しかし、証拠として提出されたのはタイムカードとPCログオン時間のみ。結果として、「客観的な労働時間管理がされていない」と判断され、企業側に一定額の支払い命令が下されました。

現代の働き方は、物理的な「在社時間」が必ずしも労働実態を反映しているとは限りません。にもかかわらず、未だ多くの企業が「タイムカード」「PCの電源ON/OFF」など、表面的な“在席”記録に頼り続けています。その結果、不必要な残業代を垂れ流している可能性があるのです。

また、注意すべきは「未払残業代の時効」の変化です。
以前は時効2年とされていましたが、2020年4月の労働基準法改正により、これが3年に延長されました。さらに、将来的には5年へと延長される方針が明確に示されており、2025年4月以降の新たな法改正に向けて準備が進んでいます。

これは何を意味するのか。
企業が「今月は請求がなかったから問題ない」と油断している間に、3年間分、あるいは将来的には5年間分の“未払い請求爆弾”が蓄積されているということです。時効の壁に守られていた時代は終わり、いまや「労務管理は“未来への法的リスク回避”である」ことが、企業防衛の常識になりつつあります。


【問題の本質についての分析】

私は、犯人の動機や習性を見抜くプロとして、行動と結果の因果関係に徹底的にこだわってきました。労働問題においても同じです。問題は「残っていたか」ではなく、「業務に従事していたか」にあります。

タイムカードやPCログだけで「労働実態」を把握しようとするのは、犯人像を「防犯カメラの映像だけ」で特定するようなものです。確かに姿は映っている。しかし、その瞬間、何をしていたのかまでは分かりません。

残業代は、あくまで「使用者の指示または黙示の指示により行われた業務」に対する報酬です。自己都合の残業や、業務と無関係な居残り時間にまで支払う義務はありません。にもかかわらず、実態調査や制度整備を怠っている企業ほど「払わなくてもいい残業代」を支払ってしまっているのが実情です。


【ディフェンス・カンパニーが提供する解決策】

〇 業務従事の実態監視ソフト導入
パソコン操作のログ(アプリ使用履歴・キーストローク・マウス稼働など)を記録し、実際の業務内容を可視化します。「滞在」ではなく「活動」にフォーカスすることで、本当に払うべき残業を明確に分けられます。

〇 時間外勤務申請制度の導入
ディフェンス・カンパニーが提案するのは、残業の事前承認制。原則、時間外勤務申請書を提出し、上司の許可を得てから残業を開始。緊急時は、事後決裁をとる制度で運用します。曖昧な残業をなくす要の施策です。

〇 就業規則と残業規定の整備
「就業時間」「時間外の定義」「許可のない残業は支払対象とならない旨」を、明確に規定。企業を守る「盾」となる就業ルールを構築します。

〇 管理職への研修と統制強化
部下の残業を“放置”することは、黙示の指示と見なされるリスクがあります。上司が「業務命令の範囲」を明確に認識し、統制する責任を研修で教育します。

〇 残業モニタリングレポートの導入
毎月、部門単位で「申請残業」「実残業」「PC稼働実績」の三点を突合するレポートを作成。労務監査の観点からも有効です。

〇 固定残業制の正しい運用
制度として導入する場合も、「何時間分」「何の業務が対象」「超過時の扱い」を詳細に明記。曖昧な制度は命取りです。

〇 不正残業の内部通報制度設置
悪意ある「残業稼ぎ」が横行する環境は、優秀な社員のモチベーションも蝕みます。匿名通報窓口で職場の健全化を推進します。


【法的根拠と解説】 ~ 当社顧問弁護士の見解

〇 2020年労基法改正と時効延長の法的背景
【要旨】
労働基準法第115条の改正により、2020年4月以降、賃金債権の時効が2年から3年に延長されました。さらに、附則第138条により「将来的には5年とする」旨が明記されています。

【対応部分】
本文で述べた「将来的な5年遡及リスク」は、附則における立法趣旨に基づいています。

【企業危機管理への示唆】
時効が延びるということは、過去の労務管理ミスがより長期間にわたり「請求対象」となる危険があるということ。企業にとっては、経年の内部監査体制の重要性が増します。

【解釈から導ける指針】
「今問題が起きていないから大丈夫」という発想は、完全に通用しなくなっています。3年、5年分の給与・労働実態・申請記録を遡って検証できる体制こそ、未来の安全を築きます。

【実務への落とし込み】
賃金台帳・勤怠記録・時間外申請の3点セットを、少なくとも5年間保存・一元管理するシステムと規程の整備が不可欠です。

〇 大阪高裁平成31年3月14日判決(平成30年(労)第63号)
【判旨要約】
パソコンの電源記録のみでは、労働時間の証明とはならない。業務実態がない場合、残業代の支払い義務は認められないと判断。

【対応部分】
本判例は「労働時間=会社にいた時間」ではなく、「業務に従事していた時間」であることを再確認しています。

【企業危機管理への示唆】
形式的な記録を過信すると、不要な支出を生み、また従業員との紛争リスクも高まります。

【解釈から導ける指針】
「労働の実態」を証明する仕組み(業務日報・申請書・PCログ等)が、企業を守る防壁となる。

【実務への落とし込み】
就業規則に「時間外勤務は管理者の許可が必要」と明記し、申請書制度とログ管理体制を整備することが急務です。


【おわりに】

働く側・雇う側、どちらにも正義があります。しかし「善意に頼った制度」は、往々にして悪用の温床になります。私は刑事として、人間の“抜け道”を数多く見てきました。だからこそ企業には“正義と仕組み”の両輪を持ってほしいと願います。

曖昧なルールが“無駄な支出”と“対立”を生む前に、整備と監視の両方で、会社と社員の未来を守っていきましょう。

ディフェンス・カンパニーは、困っている人、企業、社会に手を差し伸べる存在であり続けます。


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【ディフェンス・カンパニーの格言】

正義は仕組みで実現する

善意だけに頼らず、制度によって公正を守るという信念を込めた一節。誰かの誠意ではなく、全員の納得を制度で支えることが企業防衛の基本です。


※本記事は、危機管理コンサルタントとしての見解を示したものであり、法的助言や法律事務の提供を目的とするものではありません。法的判断が必要な場合は、当社の顧問弁護士をご紹介させていただくことも可能ですので、お気軽にご相談ください。