契約書の盲点が招く想定外の責任

一文の見落としが企業の命運を左右する


「契約書は法務が見ているから大丈夫」そう思い込んでいる経営者は少なくありません。
しかし、過去の現場で私は数多くの企業が、わずか一文の契約条項によって数千万円規模の損害を被る場面を見てきました。そこに共通していたのは、「読み飛ばした」「理解していなかった」という小さな油断です。ニュースでも、取引先の倒産や製品事故で、契約内容が想定外の責任を押し付ける形になり、経営が傾くケースが後を絶ちません。

【問題の本質についての分析】

契約書は、単なる約束事ではありません。裁判になれば、その一字一句が法的拘束力を持ちます。元刑事として交渉現場やトラブル解決に立ち会った経験から言えるのは、契約書の盲点は主に次の3つに潜みます。
1つ目は「曖昧な表現」。例えば「できる限り努力する」という努力義務条項は、解釈次第で無限に責任を問われる可能性があります。
2つ目は「相手有利のデフォルト設定」。ひな型をそのまま使えば、作成者側に有利な条文が残るのは当然です。
3つ目は「将来の想定不足」。事故・災害・取引先の倒産など、非日常的な事態への取り決めが抜け落ちることです。


【ディフェンス・カンパニーが提供する解決策】

契約前チェックの第三者化
 社内の担当者だけで契約書を見ても、社内事情に引っ張られて「まあ大丈夫だろう」と判断してしまうことがあります。そこで、契約前に外部の専門家や異なる部署の人間など、利害関係のない第三者が内容を精査します。文章の意味や条件の解釈について「素人目にどう読めるか」を確認することで、盲点を潰します。

曖昧な表現の排除
 「努力する」「可能な限り」などの抽象的な表現は、相手側に都合よく拡大解釈される危険があります。例えば「納品はできる限り迅速に行う」ではなく、「注文後10営業日以内に納品する」と期限を明確化します。こうすることで、紛争時に解釈を巡って争う余地をなくします。

ひな型依存からの脱却
 過去の契約書やネット上のひな型を使い回すと、その案件固有のリスクや条件が反映されません。必ず契約ごとに「今回は何が特殊か」「相手の条件は過去と何が違うか」を洗い出し、それに合わせて条項を修正します。特に損害賠償や契約解除の条件は毎回見直すべきです。

相手方作成文書の精査
 取引先が用意した契約書は、必ず相手に有利な内容になっています。例えば納期遅延の罰則が一方的に重かったり、損害賠償の上限が自社だけに設定されていたりします。そのため、契約書を受け取ったら「相手が得をする条件はどこか」を洗い出し、必要な修正を求めます。

想定外事態への条項追加
 地震や感染症、取引先の倒産など、想定外の事態が発生した場合に責任をどう扱うかを契約書で定めます。不可抗力条項を入れ、天災や不可避の事由での履行不能は責任を免れる旨を明記します。また損害賠償の金額上限を設定し、無限責任を避けます。

取引先の信用調査
 契約の中身よりも、そもそも相手が信用できるかが重要です。与信調査会社のデータ、官報公告、ネット検索、反社チェックなどを組み合わせ、財務状況や反社会的勢力との関係有無を確認します。信頼性が低ければ契約自体を見送る勇気も必要です。

契約更新時の再評価
 一度結んだ契約も、環境が変われば不利になることがあります。例えば物価上昇や法改正、取引条件の変化に対応するため、更新のタイミングで契約内容を再評価します。この際、相手側に改善提案を出すことも交渉の一環です。

危機管理+法的リスクの二重チェック
 当社では、元刑事の視点による危機管理チェックと、当社弁護士による法的リスクチェックの二重体制を採用しています。これにより、条文の法的解釈の甘さや、将来起こり得る不測の事態による経営リスクを同時に洗い出し、契約段階での防御力を最大化します。


【法的根拠と解説】(当社顧問弁護士の見解)

契約自由の原則(民法521条)は、当事者間で自由に契約内容を決められる一方で、不利な条件もそのまま効力を持つ危険があります。また、民法415条(債務不履行の損害賠償)や民法536条(債務者の危険負担)などは、条文の書き方一つで責任範囲が大きく変わる可能性があります。特に裁判所は、当事者間の合意内容を最優先に判断するため、契約書の文言が実務対応のすべての基礎となります。


実際に、ある企業は相手先の事故による損害賠償を求められましたが、契約書に責任上限と不可抗力条項を事前に盛り込んでいたことで、賠償額を最小限に抑えられました。逆に、条項がなかった企業は、法的には責任を負わざるを得ず、倒産の引き金となりました。


【おわりに】

契約書の盲点は、事件現場の“死角”と同じです。気づいたときには既に被害が広がっていることが多いのです。だからこそ、日常的な点検と警戒が必要です。
ディフェンス・カンパニーは、困っている人、企業、社会に手を差し伸べる存在であり続けます。


【ディフェンス・カンパニーの格言】

契約は盾にもなり、刃にもなる

盾として機能すれば企業を守りますが、刃となれば自らを傷つけます。その分岐点は、事前の精査と備えにあります。


※本コラムは一般的情報提供を目的としており、法律業務に該当するものではありません。個別案件については必ず弁護士等の専門家にご相談ください。