サイバー攻撃対策は万全?本当の脅威は、あなたの隣にいる
「ウチは最新のセキュリティシステムを導入しているから大丈夫」。多くの経営者がそう考えています。しかし、私が対峙してきた数々の“事件”の現場で見てきた現実は、その自信を根底から覆すものでした。大手通信キャリアの顧客情報が、退職した元社員によって競合に渡る。有名飲食チェーンの秘伝のレシピが、独立した元店長によって丸ごと盗用される。こうした事件は、決して他人事ではありません。
何千万円も投じた強固なデジタル要塞も、内部の人間の「悪意」や「出来心」の前では、いとも簡単に崩れ去るのです。なぜなら、最大のセキュリティホールは、システムではなく「人の心」に開いているからです。「退職する社員に『お疲れ様』だけで済ませていませんか?」その背中を見送った瞬間、あなたの会社の最重要データが、静かに持ち出されているかもしれません。
【問題の本質についての分析】
私が刑事時代、取り調べ室で向き合った窃盗犯や強盗犯も、その大半は生まれながらの犯罪者ではありませんでした。彼らが一線を越える背景には、金銭への渇望、不遇への不満、そしてほんの少しの自己顕示欲がありました。情報を盗む者たちの心理も、これと全く同じです。
- 「これくらい、俺の貢献に比べれば当然の権利だ」という歪んだ正義感。
- 「会社に冷遇された仕返しだ」という怨恨。
- 「転職先に良い顔がしたい」という見栄。
- 「バレなければ問題ない」という安易な考え。
私は、事件現場に残された僅かな痕跡から犯人像を炙り出す「地理的プロファイリング」を得意としてきましたが、それは社内でも同じです。社員の日常の言動には、必ず犯行に至る「予兆」という名の痕跡が残されています。会社への不平不満の増加、特定のデータへの不自然なアクセス、同僚への過度な探り…。これらは、まさに犯人が残した「足跡」なのです。
多くの経営者は「性善説」で社員を信じたいと願うでしょう。その気持ちは痛いほど分かります。しかし、危機管理のプロとして、そして数多の人間の裏切りを見てきた元刑事として断言します。組織を守るためには、冷徹なまでに「性弱説」―人は弱く、過ちを犯す生き物である―に立たねばなりません。それは社員を疑うためではなく、彼らが道を踏み外さないように「仕組み」という名の防波堤を築き、結果的に社員自身をも守るためなのです。
【ディフェンス・カンパニーが提供する解決策】
〇 採用面接を「身体検査」と心得よ
履歴書や職務経歴書は鵜呑みにしてはいけません。前職の同僚や上司へのリファレンスチェックという名の「裏付け捜査」を徹底し、申告内容に嘘がないかを確認する。この一手間が、時限爆弾を社内に持ち込ませないための最初の防衛線です。
〇 誓約書を「ただの紙切れ」で終わらせるな
入社時や退職時の秘密保持誓約書への署名捺印を、単なる事務作業にしてはなりません。弁護士同席の上で、情報漏洩が発覚した場合の具体的な損害賠償額や刑事罰のリスクを、顔を突き合わせて宣告する。この「儀式」とも言える緊張感が、安易な裏切りへの強力な心理的抑止力となります。
〇 アクセス権限は「必要最小限」が大原則
「念のため」「便利だから」といった安易な理由で、全社員に重要データへのアクセス権を与えていませんか?それは、金庫の鍵をばら撒いているのと同じ行為です。各人の職務に必要な情報だけに権限を絞り、定期的に見直す。誰が、いつ、何に触れたのか。この「現場鑑識」の徹底が基本です。
〇 ログ監視は24時間体制の「張り込み」だ
不審な時間帯のアクセス、大量のデータダウンロード、退職予定者による機密フォルダへのアクセス。これらは全て、システムが発する「悲鳴」です。異常を検知したら即座にアラートが鳴る設定は必須。これは、犯行の瞬間を捉えるための、デジタル空間における張り込み捜査に他なりません。
〇 定期面談は不満のガス抜きを行う「事情聴取」
社員の不満は、内部不正の最大の動機です。彼らが何に悩み、何を不満に思っているのかを吸い上げる定期的な面談は、犯行の動機形成を防ぐための重要な「事情聴取」です。ここで心を開かせ、ガス抜きをすることが、最も効果的な予防策となります。
〇 円満退職こそ、最大の「牽制」
退職者を敵として扱えば、彼らは喜んで情報を持ち出すでしょう。最後まで敬意を払い、円満に送り出す。しかし、その裏で「君の未来は応援する。だが、ルールはルールだ」という毅然とした姿勢で、競業避止義務や秘密保持義務については、書面で明確に再確認させる。このアメとムチの使い分けが肝心です。
〇 デジタルデバイスは必ず「証拠保全」せよ
退職者が使用していたPCやスマートフォンは、情報の宝庫であり、同時に不正の証拠が詰まった「現場」です。初期化して再利用する前に、必ず専門家によるデジタル・フォレンジック(鑑識)で中身を保全・調査する体制を構築すべきです。事が起きた後では手遅れです。
〇 内部通報制度という名の「協力者」を育てよ
社内の不正に最初に気づくのは、経営者ではなく、現場の同僚です。正義感からくる内部通告が、経営者の耳に安全に届くルートを確保する。信頼できる通報窓口は、組織の自浄作用を促す「有能な情報提供者(協力者)」となり得ます。
【法的根拠と解説】 ~当社顧問弁護士の見解
〇 不正競争防止法という「武器」
従業員による情報漏洩と戦う上で、最も強力な武器が「不正競争防止法」です。特に「営業秘密」として保護されるためには、①秘密として管理されていること(秘密管理性)、②事業活動に有用な情報であること(有用性)、③公然と知られていないこと(非公知性)の3要件を満たす必要があります。この要件を満たして初めて、法的な「事件」として扱えるのです。
〇 「差し止め」と「損害賠償」という追撃
情報漏洩が発覚した場合、企業は元従業員に対し、情報の使用停止(差し止め)や、漏洩によって被った損害の賠償を請求できます。過去の裁判例では、転職先の企業が持ち出された顧客リストを利用して営業活動を行った事案で、数千万円単位の損害賠償が命じられたケースも少なくありません。これは、裏切りに対する正当な裁きです。
〇 刑事罰という「最後通牒」
悪質なケースでは、民事上の責任だけでなく、刑事罰が科される可能性もあります。不正競争防止法違反には「10年以下の懲役若しくは2000万円以下の罰金(またはその両方)」という重い罰則が定められています。これは、情報漏洩が単なる裏切りではなく、社会的に断罪されるべき「犯罪」であることを明確に示しています。
〇 実務への落とし込み
これらの法的リスクを現実の力とするため、就業規則や誓約書に「営業秘密の定義」「退職後の秘密保持義務」「違反した場合の罰則規定」を具体的に明記することが不可欠です。曖昧な表現では、いざという時に武器として機能しません。
【おわりに】
経営者として、社員を家族のように信じたい。その想いは尊いものです。
しかし、私が捜査の現場で骨身に染みて学んだのは、「人は、状況によって悪魔にも聖人にもなり得る」という事実です。
だからこそ、経営者には「愛」と同時に「覚悟」が求められます。社員が過ちを犯さないための「仕組み」を作り、万が一、一線を越えた者が出た場合には、断固として「正義」を執行する覚悟です。
それは、会社を守るためだけではありません。真面目に働く大多数の社員を守り、彼らの努力が裏切り者によって無に帰すことを防ぐためでもあるのです。
問題を見て見ぬふりをすることは、未来の加害者と被害者を生み出す共犯行為に他なりません。どうか、行動する勇気を持ってください。
ディフェンス・カンパニーは、困っている人、企業、社会に手を差し伸べる存在であり続けます。
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【ディフェンス・カンパニーの格言】
情報の閂(かんぬき)は、人の心に掛けよ。
(意味:最新のセキュリティシステムや厳格なルールも重要だが、最終的に情報を守るのは、社員一人ひとりの忠誠心や倫理観である。恐怖や義務感だけで縛るのではなく、信頼と尊敬で社員の心をつなぎとめる経営こそが、何物にも代えがたい最強のセキュリティとなる、という戒め。)