たとえ従業員が1人でも、会社には「向き合う責任」が生じます。
放置・無対応は「違法」と評価される時代へ。
「社長にパワハラを受けた」との文書が、社員から提出された。社員は2人、社長含め3人の小さな会社。コンプライアンス体制もなければ、ハラスメント規程もない。
だが、2023年12月、実際に東京都内の小規模広告会社(従業員3名)で発生したこの事案は、書面で告発した従業員が労働局に申告、会社は行政指導を受けるに至った。
「うちみたいな小さな会社に、ハラスメント規程なんて不要だろ」「そんなの大企業の話だ」そう言って何もしない経営者は、もはやリスクの真ん中に立っている。
【問題の本質についての分析】
私が現場で見てきたのは、「小さな組織ほど、人間関係の密度が濃く、こじれやすい」という現実です。人数が少ないからハラスメントが起きにくい、というのは誤解です。
むしろ閉鎖的な空間だからこそ、指導と称した強権行為や、「忠誠心」の強要が起きやすい。部下の人格に踏み込んだり、プライベートを過度に支配しようとするケースも散見されます。
そして何より怖いのは、「正義の名を借りた沈黙の強制」です。
会社に内部統制がなくても、従業員の“訴え”は国が扱います。労働局は「企業の規模」ではなく、「発言の事実」に対して動きます。
【ディフェンス・カンパニーが提供する解決策】
〇 まずは「握りつぶさない」初動方針を決める
パワハラ申告があった場合、会社の最初の一手がすべてを決めます。「事実かどうかわからないから放置」「相手は問題社員だから無視」といった感情的判断は最も危険です。対応しないこと自体が“違法”と評価されかねません。初動では、「真摯に対応する」と決めることが第一歩です。
〇 第三者的な立場を導入して、社内感情から切り離す
特に中小企業では、代表や管理職が当事者になっていることも少なくありません。このような場合は、必ず外部の第三者(弁護士や専門調査会社など)を入れることが肝要です。社内での自浄作用を期待するのではなく、外部の冷静な目を導入することで、透明性と客観性を確保できます。
〇 双方から丁寧にヒアリングを実施する
申告者だけでなく、申告された側(被申告者)からも必ず事情を聴取する必要があります。威圧的にならず、弁明の機会を与えることは公正な調査に不可欠です。事実確認の過程で重要なのは、「言い分の食い違い」がどこにあるかを明確にすることです。
〇 映像や記録など客観的証拠を確認する
現場の防犯カメラ映像、会話録音、メール・LINE・チャット履歴など、客観的証拠を総合的に精査することで、真実が浮かび上がります。「見た・聞いた」の主観だけに頼らない調査が、後々の法的トラブル予防にもなります。
〇 パワハラが認定された場合、適切な処分・再発防止策を講じる
調査の結果、パワハラ行為が認められた場合は、そのまま終わらせることは許されません。懲戒処分の検討、被害者への謝罪・配慮措置、職場環境改善、ハラスメント研修など、再発防止に向けた明確なアクションが求められます。これを怠ると、行政指導や訴訟のリスクが現実化します。
〇 結果を文書で記録し、透明性を担保する
ヒアリング記録・調査経過・対応結果などをしっかり文書化しておくことで、「やるべきことをやった」という説明責任が果たせます。万が一の行政調査や訴訟リスクに備える、企業の“盾”となる記録です。
〇 匿名通報制度や社内相談体制の導入で、事前に芽を摘む
申告が“書面”で来るというのは、すでに爆発寸前まで問題が進行しているというサインです。できれば、匿名通報制度やハラスメント相談窓口を設け、社員が“声を上げやすい環境”を作っておくことが、根本的な予防策となります。
〇 中小企業こそ「ハラスメント対応方針」を明文化する
「うちは小さい会社だから」という言い訳は通用しません。むしろ規模が小さいからこそ、あらかじめ方針を明文化し、全社員に共有しておくことが極めて重要です。ルールがないから混乱が起き、放置がトラブルの温床になるのです。
【法的根拠と解説】~当社顧問弁護士の見解
〇 パワハラ防止法(労働施策総合推進法第30条の2)
この法律は、企業の規模に関係なく“事業主”に対し、パワハラ防止のための雇用管理上の措置義務を課しています(令和4年4月より中小企業にも適用)。
〇 東京地裁平成30年7月判決(損害賠償認容・従業員2名企業)
従業員2名の小規模会社でも、社長の暴言・圧力行為により「職場の人格権侵害」が認定され、慰謝料40万円が命じられた事案があります。
判例が示すのは、「会社規模で見逃されることはない」という司法の姿勢です。
〇 実務への落とし込み
就業規則やハラスメント規程が未整備でも、「誠実な初動対応」と「中立的な調査体制」を用意することで法的リスクは大きく軽減できます。 ・記録を残すこと、社外の助力を仰ぐこと、それ自体が「体制がある」ことの証明になります。
【おわりに】
「うちは小さいから関係ない」そう思っていた経営者が、最初の一通の「申告書」で倒れる時代です。
法律は、従業員の「数」ではなく、「声」に応じて動きます。企業として守るべきものは、従業員の命と尊厳、そして経営そのもの。
ディフェンス・カンパニーは、困っている人、企業、社会に手を差し伸べる存在であり続けます。
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【ディフェンス・カンパニーの格言】
「沈黙は防衛ではない」
小さな声に耳を傾けることが、組織の真の強さである。社内の声を無視した瞬間から、組織崩壊のカウントダウンは始まる。
※本記事は、危機管理コンサルタントとしての見解を示したものであり、法的助言や法律事務の提供を目的とするものではありません。 法的判断が必要な場合は、当社の顧問弁護士をご紹介させていただくことも可能ですので、お気軽にご相談ください。