投稿の削除から加害者の責任追及まで
個人でも企業でも、SNS上で名指しの誹謗中傷を受けるリスクは、もはや誰にでも起こり得る「現代の災害」です。
一見、軽い言葉に見えても、実際には顧客離れ・信用失墜・従業員の不安・採用への悪影響など、極めて深刻な実害をもたらします。
にもかかわらず、「どうやって削除するのか分からない」「削除されないまま放置されている」ケースが後を絶ちません。
本日は、SNS誹謗中傷ついて、確実に削除へと導く具体手順と戦略を公開します。
【問題の本質についての分析】
SNS誹謗中傷の最大の問題は、「発信が一瞬、拡散が一斉、削除が困難」という構造にあります。
ネット上に投稿された情報は、元から削除されなくとも、スクリーンショットや転載によって形を替えながら長期間にわたり蓄積・拡散し、被害が現在進行形で拡大します。
さらに、多くの誹謗中傷投稿は匿名で行われるため、加害者の特定と責任追及は困難です。しかし、日本法はこれに対応する複数の制度を整備しています。
まずキーとなるのが、2024年5月に公布された「プロバイダ責任制限法」の改正法で、この改正により法の名称が「情報流通プラットフォーム対処法(情プラ法)」に変更されました 。
この改正により、以下の新たな義務が大規模プラットフォーム事業者(例:X、Facebook、YouTube等)に対して課されます 。
- 被害者からの削除申出に対応する窓口の整備・公表
- 投稿内容の削除判断を一定期間内(例:概ね14日以内)に通知する義務
- 削除基準や運用状況の透明化(年次報告の公開)
- 専門人材(侵害情報調査専門員)の選任と届出義務
これにより、従来ほぼ任意任せだった削除に関する対応が、法的義務化され迅速かつ透明な対応に改善される枠組みが整ったのです。
また同時期、2022年の刑法改正による侮辱罪の厳罰化(懲役1年以下・罰金30万円以下等)も施行されており、SNS中傷への刑事責任の追及も強化されました。
つまり、日本法はすでに匿名の誹謗中傷に対抗する具体的な手段を順次整備しているのです。
キーは、「法がある」ではなく「その法を戦略的に使いこなす」こと。
ですから、順を追い、粛々と、法的に潰していく。これが最も確実かつ効果的な対応です。
【証拠の確保(必ず最初に実行)】
SNSの投稿・DM・コメントなどは、突然削除・非公開化される恐れがあります。
まずはスクリーンショット(全体・アカウント名・日付・URL)を時系列で保存してください。
- 投稿だけでなく、プロフィール画像・アイコン・過去の投稿履歴も記録
- 動画やライブ配信は画面録画も有効
- リンク付きのテキストファイル+保存日時を添付しておくと証拠価値が高まります
- 可能であれば、弁護士または第三者による保全(電子公証)も検討を
【削除依頼の方針を決定する】
対象のSNSプラットフォームごとに対応手段が異なります。
基本的には以下の3パターンの選択肢があります。
方法 | 内容 | 対応の主体 |
---|---|---|
① SNS上の「報告・通報」機能 | 内容が明白な場合(誹謗・暴力・プライバシーなど) | 被害者自身で対応可 |
② フォームでの法的削除申請 | 「名誉毀損」など法律に触れる場合 | 原則、弁護士が対応 |
③ プロバイダ責任制限法に基づく発信者情報開示+削除請求 | 投稿者の特定と並行 | 弁護士・専門業者が対応 |
【SNSごとの削除申請方法を実行する】
●X(旧Twitter)
- 投稿の「︙」→「報告する」→理由を選択(ヘイト・嫌がらせ・プライバシーなど)
- コメント・DMなども含め「報告」ボタンで通報
- ビジネス被害(信用毀損等)の場合は
- 投稿やコメント右上の「︙」→「問題を報告」
- 法的削除申請はFacebookビジネスサポート経由または
●YouTube
- 問題の動画の下にある「︙」→「報告」→理由を選択
【弁護士名義による「削除依頼通知書」の送付(効果絶大)】
削除されない場合は、弁護士名で通知書を送ることにより、SNS運営側の法的責任リスクを明確にし、対応を促します。
- 内容例:「当該投稿は名誉毀損に該当し、違法性が明白です。速やかに削除されない場合、発信者情報開示請求、損害賠償請求を行います。」
- SNS運営会社の法務部門宛に内容証明郵送またはFAX/オンラインフォーム提出
- 日本国内に代理窓口がない場合、英文通知+法的根拠(日本法・国際法)併記
【プロバイダ責任制限法に基づく正式な「削除請求+発信者情報開示請求」】
- 削除と同時に投稿者の特定(IPアドレス・ログイン履歴)も求める
- 発信者を訴える前提での手続きとなるため、内容の精査と証拠整理が極めて重要
- この段階では、必ず専門弁護士と連携することが必須
【損害賠償請求/刑事告訴の検討】
削除だけでは終わらせず、再発防止・社会的責任を問うために、以下の法的措置を検討します。
- 損害賠償請求(民事)
名誉毀損・信用毀損・営業妨害に対して数十万〜数百万円 - 刑事告訴(刑法230条、233条等)
SNS上での悪質な中傷は、刑法上の犯罪として立件可能
【 再発防止策の構築(企業・個人ともに必須)】
- 定期的なエゴサーチ(自社名・代表名・商品名など)
- 投稿監視ツール(当社開発のサービス型SNSモニタリング)
- 相談窓口・ガイドラインの整備
- 弁護士・警察OB・ITチームとの三位一体対応体制(ディフェンス・カンパニー方式)
【注意点と戦略】
- 感情的にならず、粛々と証拠収集と削除手続に徹すること
- 相手が「個人」か「組織的な攻撃」かで対応が異なる(組織的誹謗には集団訴訟等の選択肢も)
- SNSの海外運営が多いため、法律的根拠+専門家の後ろ盾が必須
【おわりに】
SNS上の誹謗中傷は、もはや無視では済まされません。
被害を放置することは、自らの信用を傷つけ、次なる攻撃の呼び水にもなり得ます。
一つひとつ、法と戦略で潰していくこと。それが最も確実で、かつ、社会的信用を守る方法です。
【ディフェンス・カンパニーの格言】
匿名の刃は、法と理によって折られる。
匿名という現代的な加害構造を法と理によって制圧し、被害者を救う唯一の正攻法を示したものである。
※本記事は、危機管理コンサルタントとしての見解を示したものであり、法的助言や法律事務の提供を目的とするものではありません。
法的判断が必要な場合は、当社の顧問弁護士をご紹介させていただくことも可能ですので、お気軽にご相談ください。